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ハリー・ポッターと純血の守護者

第16章 【小さな大冒険】


 クリスがはにかむと、ロイドもニッと笑って見せた。ずっと憧れていたマグルの世界。ここでは素性を隠すことなく、ありのままの自分をさらけ出してもいいんだ。もう、自分を畏怖の目で見る人間はどこにもいない。そう思うと、心に羽が生えたような気分がした。しかし、そんな夢も終わりに近づいていた。
 徐々に日も暮れ、夕焼けが見え始めたころ、クリスは鋭い視線を感じて空を見上げた。すると電灯の上にカラスが1羽――父様の使い魔、ウルキがじっとこちらを見つめていた。その瞬間、クリスの背筋に冷やりと冷たいものが走った。

「あ、あああ……」
「どうした?クリス?」
「ダメ……わたし、行かなきゃ」
「行くってどこにだよ、おい!クリス!!」

 クリスはロイドが止めるのも聞かず、一目散に公園を駆け抜けた。後ろから皆の声が追いかけるのにも耳に入らず、今頭の中にあるのは父様のことだけだ。どうしてここが分かったんだろう、誰にも気づかれずに来たはずなのに。
 空を見ると、間違いなく家紋入りの足環をつけているカラスがクリスを追いかけて来ている。クリスは心臓が破裂するほど、もと来た道を走った。クリスが煙突飛行を使ってロンドンに来ている事は誰も知らないはずだ。それなのにどうして――。漏れ鍋に着くと、クリスは一瞬立ち止まって深呼吸をし、扉の取っ手に手をかけた。

(どうか父さまが居ませんように……)

 しかし現実は非常だった。クリスがゆっくり扉を開くと、ウルキがスーッと頭上を通り過ぎ、1人の男の肩に止まった。その男は漏れ鍋にいる客とはまとっている空気が違い、どこか孤立した独特な空気が漂っている。クリスと同じ真っ黒い髪に、同じような真っ黒いローブ、同じく彫刻のような整った顔立ちに、雪のような白い肌。そう、クリスの父親、クラウス・グレインが店の隅に立ってこちらを見つめていた。
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