第15章 【ゴムゴムの腕】
その夜は中々寝付けず、何度も寝返りをうっては眠れない時間だけが過ぎていった。仕方なくクリスは別のことで気を紛らわそうと考えた。そういえば、ドラコと約束のレポートがまだ残っている。クリスは皆を起こさないようにそっと気をつけながら部屋を出た。
誰もいない談話室では、パチパチと燃える暖炉の薪だけが部屋の中に響いている。クリスはランプを側に置くと、テーブルの上に羊皮紙を広げた。ランプの灯りがぼんやりと照らす中、クリスは余計な事はなにも考えないようにしてレポートに熱中した。見慣れた自分の字が、サラサラと羊皮紙を埋めていく。
そうして何時間たっただろう。時計の針が12時をとっくに回ったころ、男子寮へ続く階段から、かすかな足音が聞こえた。クリスはサッと懐を手にし、とっさに杖を構えた。
「誰だ!出て来い!!出てこなければこちらから行くぞ」
怖くなかったかと言えば嘘になる。だがクリスは杖を構えたままジリジリと間隔をつめていった。
「良いか、3秒以内に出て来い。出てこなければ攻撃を仕掛ける。――3・2・1――」
「うわあああああああああぁぁぁぁぁ!!!!ごめんなさい、ごめんなさいぃ」
階段の影から、小さな男の子が飛び出してきた。杖を構えて明かりを向けると、そこにはパジャマ姿のコリン・クリービーがガタガタ震えながら両手を上げていた。何故か片方の手にはぶどうが一房ぶら下がっている。内心クリスはほっと息を吐いた。
「こんな時間に何処に行こうって言うんだ、コリン・クリービー」
「あの……その、僕……ちょっとトイレに――」
「ぶどうを持ってか?」
厳しい顔をしたクリスに、コリンはもごもごと口を動かした。口に出さなくても分かっている。この子の目的はハリーだ。入学以来、ハリーの後を追っかけなかった日はなかった。
「こんな真夜中に医務室に行ったって、ハリーは寝てるだけだぞ」
「それでも良いんです。僕、誰よりも早くハリーにお見舞いの品をあげたくて……」