第15章 【ゴムゴムの腕】
痛みはないのか、ハリーは自分の腕を見て目玉が飛び出しそうなほど驚いている。恐る恐る手首を反らすと、指は簡単に手首にくっついた。それを見て、ロンが「……わぉ」と低い声でささやいた。
「まあ、つまり……偶にはこんな例もあるでしょう。あれですよ“駿馬もつまづく”と言うでしょう。しかしもうこれで腕は折れていない、それが重大なわけです。と言う事でハリー、もう痛みはないでしょう?誰か――あー、君たち、ハリーを医務室まで連れて行ってあげなさい。なるべく、人目を避けて、ね」
そう言うと、ロックハートはそそくさとどこかへ消えてしまった。こんな状態だと言うのに、チームキャプテンのウッドは笑顔を隠しきれない様子だ。双子は暴れまわるブラッジャーを箱にしまおうと格闘している。残りのメンバーは哀れな表情でハリーを見つめていた。
「行こう、ハリー。こっちの方が人目に付きにくい」
ハリーもこんな惨状を人目に晒されたくはないだろう。ロン、クリス、ハーマイオニーの3人はハリーを囲むようにして歩き出した。その後ろから、またパシャパシャとシャッターを切る音が聞こえたが、それを無視して4人はマダム・ポンフリーの元へ向かった。
「まったく、どうしてこうなる前に私のところに来なかったんです!!!!」
ハリーの腕を見て、マダム・ポンフリーは頭から湯気を出して怒鳴りつけた。来られるものなら来たかったと誰が思ったが、衝撃が大きすぎて誰も言い訳をする気にもならなかった。
「骨折ならまだしも、骨を生やすとなると――」
「後遺症とかありますか?僕、まだクィディッチの試合が残ってるんです」
「安心しなさい、一晩で元どおり治せます。しかし、今夜は相当痛い思いをしますよ」
マダム・ポンフリーがパジャマを渡すと、片腕の使えないロンが手伝いの為にベッドに寄り添い、クリスとハーマイオニーはカーテンの外に締め出された。生まれて初めて腕の骨のない患者の着替えを手伝っているロンは、相当てこずっている様で、中々カーテンから出てこなかった。
「これでも優秀な先生だって言えるのかよ、ハーマイオニー。えっ?」
「誰にだって失敗はあるわ。それに先生の言うとおり、もう痛みはないんでしょう?」
「ないよ、おまけに感覚もない」