第15章 【ゴムゴムの腕】
野次馬たちが何事かと応援席から身を乗り出して見つめている。クリスは控え室を横切り真っ直ぐハリーの元へ向かった。ちょうどその時、ロンとハーマイオニーもハリーの元に到着したばかりだった。2人ともゼイゼイと息を切らし、赤いマントのチームメイトを押しのけハリーに近づいた。
「どうしたんだ、いったい何があった!?」
「ブラッジャーが……狂って、僕の腕を……」
「腕?」
見ると、ハリーの右腕が折れてはいけない方向に向いている。ハーマイオニーは一瞬「ひっ」と息を呑んだ。傷が痛むのか、ハリーはものすごい形相で土の上に寝そべっている。だがその左手にはしっかりと黄金のスニッチが握られていた。
「ハリー!ハリー!すごいよ、これが本物のクィディッチなんだね。僕感動したよ!ああっ、そのまま動かないで」
「コリン、止めてよ……こんなとこ写真にしないで」
痛みで悶えるハリーを、コリンは興奮しながらシャッターを切っていた。ハリーが苦しんでいるのをまるで喜んで見ているかのようなコリンの態度に、クリスは堪忍袋の緒が切れた。
夢中になっているコリンを、クリスは力いっぱい押しのけた。小柄なコリンの体は、クリスの細腕でも簡単に輪の中からはじき出され尻餅をついた。
「待ってろハリー、今マダム・ポンフリーを呼んで来る!」
「いや、その心配には及びません!!!」
クリスの頭上から、今一番聞きたくない声が降り注いだ。ロンはゲッという顔をして視線を上に上げている。クリスも同じような顔をして顔を上げると、そこにはマリンブルーのローブを着たロックハートが自信満々に立っていた。
「この私がいれば、骨折など瞬きをする間に治して見せましょう」
「やめて……お願い止めて……それだけは」
嫌がるハリーを片腕でがっしり抱きしめると、もう片方の手でロックハートは杖を振るった。
本当に“あっ”という間だった。ロックハートの言うとおり、周りに集まった生徒たちが止める間もないまま、光に包まれたハリーの腕はゴム細工のようにぶらりと垂れ下がった。
「あぁ――」
ゴホンと1つロックハートは咳払いをした。あとの皆は口が開いたまましゃべれないでいる。なんとハリーの腕が、骨折どころか骨抜き、いや、骨無し状態になっている。