第14章 【別れ道】
「それで先生、お願いがあるんですけど……この紙にサインしてもらえませんか?」
「サイン?――んん、まあいいでしょう。本当なら個人的なサインはお断りしているんだが。学年の最優秀生徒のお願いですし、今日の演技は自分でも惚れ惚れするくらい素晴らしかった。これは、皆には内緒ですよ?」
そう言って、ロックハートは派手な孔雀の羽根ペンを用意した。
「これは本当は著書のサイン用なんですがね――ん?そんな小さな紙で良いんですか?もっと大きい……」
「いえ、これで良いんです!」
「そうですか?欲がないのも貴女の魅力のうちの1つですね」
そう言ってウインク一つでハーマイオニーを骨抜きにすると、ロックハートはなれたペンさばきでサインをした。これで目的のものは手に入った。クリスはハーマイオニーのローブを掴むと、挨拶も早々に部屋を出て行った。
急いで図書館にむかいながら、4人は手に入れたばかりのサインを確認した。
「ほら、僕の言った通りだったでしょ。絶対上手くいくって」
「信じられないぜ、あいつ何の紙にサインしたのか確認もしなかった」
「生徒を疑わない、そこが先生の良いところなのよ」
「あいつ、この調子で我が家の借金の保証人にもなってくれないかな?」
あんまり上手く手に入ったから、冗談かと思ったがサインは紛れもない本物だ。これで念願の禁書の棚にある本が手に入る。図書館に入ると、中は水を打ったようにシーンと静まり返っていた。4人はゴクリとのどを鳴らすと、マダム・ピンスのところに手に入れたばかりの許可書を持っていった。
「『最も強力な魔法薬』?貴方これをどうするつもり?」
「あの……授業の参考に読むだけです」
ハーマイオニーは許可書を持ったまま、手を放そうとしなかった。ハーマイオニーの頬はりんごの様に赤くなっている。それをロンが無理やりむしり取ってマダム・ピンスに渡した。
「止めろよ、サインならまたいくらでも手に入るさ、特に“学年の最優秀生”にはね」
マダム・ピンスはどこか欠点がないか許可書の隅々まで見つめたが、生憎欠点らしきモノは発見されなかった。それから女史は禁書の棚に消えていくと、数分後、かび臭そうな分厚い本を持ってきた。ハーマイオニーはそれを大事そうにかばんに入れると、4人は何事もなかったかのようにゆっくり、かつ急いで図書室を後にした。