第12章 【歴史的な授業】
「え~、私が教えているのは歴史であり、伝説や神話などでは――」
「でも先生、伝説というのは歴史に基づいて作られているのではありませんか?」
「それは……そうとも言えるのでありますが……」
「先生、お願いします。『秘密の部屋』について、知っている事を教えてください。何でもいいんです」
教室中の目と言う目が、今やビンズ先生に向けられている。こんな事はまさにホグワーツ歴史史上初めてのことなのだろう。生徒に気おされる先生の目がそれを物語っていた。先生は生徒1人1人の顔をジッと見ると、やがて諦めたようにため息をついた。
「え~、それでは……皆さんの要望にお答えして、私の知る限り『秘密の部屋』についてお話しましょう」
わあっと一瞬だけ教室が騒がしくなると、次の瞬間にはもう『秘密の部屋』について一言一句聞き洩らすまいとする生徒で大人しくなった。生徒達はみな期待に目を光らせて先生を見つめている。
「皆さん知っての通り、ホグワーツが創設されたのは約千年以上昔にさかのぼります。そしてその当時最も偉大な魔法使いの4人があつまり、この地に、魔力を示した子供達を育成する場としてこの城を設けたといわれております。何故ならば、当時魔法はマグルの人々の中で恐るべき、忌むものとして迫害されてきた歴史があるからです」
先生が語り始めると、教室中がピーンと糸を張ったように緊張した。クリスの耳に、誰かがゴクリと生唾を飲み込む音が聞こえた。
「ゴドリック・グリフィンドール。ヘルガ・ハッフルパフ。ロウェナ・レイブンクロー。そしてサラザール・スリザリン。この4人が力を合わせ、マグルの魔の手から子供達を守り、教育してきました。数年間、4人は互いの存在を尊重しあい、平和に暮らしてきました。だがいつの頃からか、4人の間に亀裂が入るようになったのです。――そう、全ては後の世に『純血主義』と呼ばれるサラザール・スリザリンの主張から」
ドクン、とクリスの心臓が鳴った。手は知らず知らずのうちに汗をかき、頭から血液が下の方に流れていくのを感じた。自分がスリザリンの血を引いているかもしれない事は知っている。だがそれ以上のことは調べようとしなかったし、回りの大人達も口にしようとしなかった。その歴史が今、紐解かれようとしているのだ。