第10章 【blood】
「シッシッ!」
クリスは文字通りケダモノを追いやるように手を振った。だがフィルチの相棒、ミセス・ノリスはまるでこちらが不正を働くのを待っているかのようにジッと見つめたまま動かない。飼い主そっくりの陰険な性格に、クリスはこれでどうだと杖から火花を発射させて威嚇すると、ミセス・ノリスは驚いてピャ―ッとどこかへ消えてしまった。
後はフィルチが来る前にここから立ち去れば良いだけだ。クリスは談話室に続く廊下を走って通り抜け、「太った淑女」に合言葉を告げるとカボチャのパイとタルトを潰さない様大事に抱えて穴をよじ登った。きっとろくな食べ物も無いゴーストのパーティの後で、3人はお腹をすかせているはずだ。クリスは誰もいない談話室の暖炉の前にあるフカフカのソファーに身を沈めた――。
『殺せ……殺せ……喰らい尽くせ!』
「――ん、痛っ!」
突然左手首が痛むような気がして、クリスは目を覚ました。いつの間に眠ってしまったのだろう。辺りを見回し、まだ誰も帰ってきていないところを見ると、ほんの10数分の間だったのだろう。それにしても、なんだか嫌な夢を見た気がする。クリスはもう一度辺りを見回し、本当に誰もいないことを確認してからローブの袖をまくった。暖炉の炎に照らされた左手首の痣が、心なしか濃くなっているような気がする。
嫌な予感がする。クリスは談話室を出ると、地下牢にいるハリー達の元へ行こうと階段を駆け下りた。だが3階に来たとき、聞きなれた声を聞いてクリスは思わず足を止めた。
「ハリー、ロン、ハーマイオニー!」
「クリス!」
廊下の先に、クリスは3人の姿を見つけた。突然の再会に3人は驚いている様子だったが、それ以上に、何か怯えた様子で身を潜ませようとしている。近づこうとしたクリスに、3人が慌てて待ったをかけた。
「それ以上近づかない方が良い!」
「何を――」
言いかけて、クリスは足を止めた。どこからだろう、水溜りが溢れ足元をぬらしている。暗い廊下の水溜りは鏡のように光り、何かを映している。クリスは導かれるようにして水溜りの上を見た。