第10章 【blood】
その瞬間、クリスは言葉を失った。ぼんやりと松明が照らしていたもの、それは真っ赤な血文字で描かれたメッセージと、宙に浮かぶようにして吊り下げられたミセス・ノリスだった。
「なんだこれ!?ここでいったい何があった?どうしたんだこれは!?」
「僕達にも分からない。僕はただ声を追いかけてきたらここにたどり着いたんだ」
「声を?」
その時、階下から大広間の扉が開く音がして、ガヤガヤとした人声がこちらに向かってきていた。とにかくここにいたら不味い。逃げようとしたクリスだったが足が動かず、あっという間に人ごみの前にさらされてしまった。反対側のハリー達も同じように人に囲まれ、ここからの脱出は不可能になってしまった。
初めは気づかず廊下を歩いていた生徒達だったが、前方の生徒が松明に照らされたメッセージとミセス・ノリスに気づくと、悲鳴を上げて後ずさりを始めた。逆に後方の生徒達は何があったのかと前に詰め寄り、廊下はあわやの大混乱となった。その中で、水溜りを挟んだ4人だけがぽっかりと人ごみから取り残されてしまった。
2千以上の目が一斉にこちらを向いている中、ざわめく声を押し通るように、未だ声変わりもしていない少年の声が高らかに響いた。それは確かにクリスの耳に馴染みのある声だった。
「『秘密の部屋は開かれたり 継承者の敵よ、気をつけよ』次はお前達の番だぞ『穢れた血』め!!」
振り返ると、他の誰でもない、ドラコがこれ以上ないって言うほど楽しそうに唇をゆがめていた。