第21章 Starting Over/ky
飲み友達って言えば何だか軽い関係に聞こえるけど、実際の私たちは少々複雑なところがある
初めは友達数人で居酒屋なんかによく集まっていた
それがいつの間にか二人だけで会うようになって
家に招待されるようになって
世間話から趣味の話、お互いの恋愛論まで語り合って
気付くと朝、なんて珍しいことじゃなかった
そうして段々と近くなっていく距離と重ねていく時間に、キヨを好きになるのは自然な流れだった
肩や指先が触れ合う度に期待して
会う度にソワソワしたり
でもそれ以上は何もなく…
多少なりとも私に好意を持ってくれてると思ってたのに
二人きり、お酒、至近距離
これだけ揃って何もしてこないとなると
キヨはああ見えて奥手なのかもしれない
あの日もいつものように遅い時間まで飲み明かしていた私たち
もう何本開けたかわからない
そして今日も変わらず決定打はない
良い状態に出来上がっていた私は、推測を断定に変えて隣にいる隙だらけの酔っ払いに顔を寄せた
早く飲み友達以上へと昇格したくて
たった一回
キスしてしまった
自分から
この後きっと甘い時間が過ごせる、とアルコールでふにゃふにゃになった脳みそは予感した
でも視界に映ったキヨは凍り付いたように表情を固まらせていた
そして一言
「…それは、ないわ……」
されど一回
私はこの日人生における最大の大失態を犯した
取り敢えずその場は精一杯のハイテンションで「ノリでやってみた!」なんて誤魔化したけど、私の心はボロボロだった
穴があったら入りたい!とはまさにこのこと
嫌われてしまった、と数日心の穴ぐらに閉じ篭る羽目になった
それからしばらくも経たない内にキヨは連絡をくれた
内容は宅飲みのお誘い
ビクビクしながら行ってみると、なんと普段通り
しかも体が触れ合う距離間のまま
あーあれはもうなかったことにしてくれると言うキヨ様のお慈悲なんだなと勝手に解釈して、その苦いキスと恋心は心の奥底に沈め込んだ
まぁそんな事件があって、飲み友達というには後ろめたさを感じる立ち位置になってしまったのだけれど、以前と変わらず接してくれるキヨや過ぎていく時間が、私の罪悪感を薄れさせてくれていた
そう、思っていたのに…!
「なぁ…つばさ
なんであの時…キスした…?」
…今になって、それ蒸し返しますか?!