第19章 プリン/rtrt
俯き強く握った手を見つめていると
視線を横切る一回り大きな手
上から包まれるように重なり合うと、その手の暖かさに自然と力が抜けていく
顔を上げると、ベッドから身を乗り出して微笑むレトさん
いつもの優しい笑顔だけど、心なしか眉尻が下がってる
「ごめんな、心配かけて」
……あーあ、レトさん
そんなの、反則だよ……
込み上げてくる涙を振るうように立ち上がり、レトさんの手をベッドの上へと戻す
「ほんと、もう勘弁してほしいよ。
豆腐と鮭フレークはしばらく禁止ね」
今度は私が笑いながら、冗談を言う
レトさんは不満を漏らしながらも笑って応えてくれた
「それにしても…あー、プリンー!食べたいー!!」
「ふふ、そんなに食べたかったの?」
子供みたいに駄々をこねる様子は
なんだか可愛くて、つい笑ってしまう
「ちょっとの辛抱なんだから。
退院したら買ってあげるからさ」
ベッドの端に座り直すと、母親気分で諭してみる
おまけによしよしと髪を撫でてみるけど、不満そうに口を尖らしたまま
「プリンじゃなくてもなんか甘いやつ…
飴でもいいからっ!
つばさ持ってへんの?」
そんなに食べ物に執着しないレトさんが珍しい
飴は持ってるけど、もちろんあげるつもりはないし
どうしようか考えて、ひとつのイタズラを思い付く
「もう、仕方ないなぁ…」
体を捻らせてレトさんに近付く
そのまま顔を寄せると、唇に触れるだけの軽いキス
「…今は、これで我慢して?」
プリンより甘かったでしょ?
と冗談のつもりで仕掛けたはずだったのに
レトさん、驚いた顔で火が付いたように真っ赤で
意外な反応になんだかこっちも恥ずかしい
冷静になって考えると、よくこんなことしたよね…
頬が熱くなるのを感じて視線を泳がせると、レトさんが私の腕をぐいと掴む
「つばさ、も一回」
上目遣いで強請る仕草は女子顔負けの可愛らしさ
心臓がきゅうっと鳴る
いつもはもっとサバサバしてるのに
…もしかして、甘えてる?
入院した事、やっぱり心細かったのかな…
「…続きは退院したらね」
えー、と抗議の声を上げるレトさんの頬はまだ少し赤いまま
笑って誤魔化す私の頬もきっと赤いんだろうなぁ
レトさん、早く元気になあれ