第19章 プリン/rtrt
「あれ、プリン入ってへんやん」
「あ゛ぁ?!」
ドスのきいた返事をすれば
嘘やで、と笑って応える
目の前にいる点滴で繋がれたヒト
私の彼氏、レトさん
現在、食あたりで入院中
「いやーほんまつばさがいてくれて良かったわ」
手渡したビニール袋をガサゴソと漁りながら
ベッドの上のレトさんは嬉しそうに言う
突然の入院で何の準備もしてきていないため、私がここへ来る前に買い出しをした物だ
その様子を横目に病室にある備え付けの丸椅子に座ると
鞄から携帯を取り出し、送られてきたリストを見せた
「…レトさんさぁ、これ。
リストの最後のこれ、何?」
「え?何って…プリン?」
事前に送ってもらったリストには、洗面用具や着替え、充電ケーブルなどが書かれていた
その中の一番最後にあった三文字『プリン』
「食あたりで入院した人がプリン?
絶食と言われている人がプリン?」
「だって、もう元気やしー」
「………はぁあ?」
「つばさ、今日なんか怖ぁ」
レトさんはヘラヘラと笑ってみせる
冗談なのか、本気なのか…
こっちがどれだけ心配したかも知らずに呑気なこと
入院すると聞いた時は心臓が飛び出るくらい驚いた
深夜に救急車で運ばれて、そのまま入院
連絡をもらったのは朝になってからだった
疲れて寝ているところをわざわざ起こすのも悪いと思って、と言ってくれたけど、こんな時くらい彼女を頼ってくれてもいいのにって淋しくなった
それに食あたりの原因と思われる賞味期限切れの豆腐に、常温で置きっ放しの食べかけた鮭フレーク
豆腐は前に私が買ってそのままにしたものかな、とか
鮭フレークがテーブルに置いたままだったことは気付いてたのに、冷蔵庫に仕舞わなかったせいかな、とか
自分のせいでもあるなって悩んだりしたんだけど
それを言ったところで真相なんてわからないし
レトさんに逆に気遣われてしまいそう
そのちょっとしたモヤモヤと
死ぬほど心配した私に対して、おちゃらけたレトさんとの温度差とが重なって、冷たい態度に出ちゃっている気がする
…だめだだめだ
今はもう元気そうだし
病院でしっかり診てもらえてるんだから
それに今こそしっかり支えてあげなきゃいけないのに…
暗い気持ちを押し潰すように、ぎゅっと手に力を込めた