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晴のち雨のちキス【実l況l者/短編集】

第13章 あなたが全てな私/rtrt


「つばさは、変わらへんなぁ。
髪、結構伸びたね。」

そう言って、私の髪に触れる手
耳の横から梳くように下へ滑らせる

そんな仕草に胸が高鳴って、抑えられない気持ちが溢れてくる

またあの頃のように戻りたい
傷付いてもいいから
傷付けてもいいから…

口を開こうとした時だった
レトが、そう言えば、と先に言葉を発する

「なあ、つばさ。
俺な、
今度、結婚するんやわ。」

「えっ…!」

あまりにも突然の告白
驚いて言葉に詰まる

…今、何て…?
けっこん、する…?

ドクドクと鳴り響く心臓が破裂しそうで
痛い
痛い
痛い

レトは私の反応など気にも掛けずに、無邪気な笑顔で話を続ける

「つばさには直接話しときたくて。
向こうで出会った子で………、」

頭の中を掻き回されたような
酷い目眩と耳鳴り


もうやめて

そんな顔しないで
そんな話聞きたくない

幸せそうなあなたはあなたじゃない

いつも飄々として
私を振り回して
冷めた目で蔑んで
酷い言葉で罵って

それでも体は離れないまま

それを愛だと勘違いしていたい

最低なあなたじゃないと
私が報われない

まともな恋愛なんて許さない

私を
がっかりさせないで


それはもう衝動的で

助手席に座るレトの方へ身を乗り出す
驚いた顔を視界に入れたまま、唇を重ねる

一年ぶりのキス
温かいのに冷たい

唇が離れると、レトは驚いた顔のまま、私の顔を瞬ぎもせず見つめてくる

「つばさ…
なんで…キス…?」

「そんなの……
仕返しに決まってるでしょ…!」

溢れてきそうになる涙を堪えて、振り絞るように答える

「ずっと期待させて裏切られてきた仕返しだよ!」

レトはごめん、と小さく呟いて目の前に輝く街に視線を移す


あぁ
あなたはもう私の知らない人
彼女が、東京が、変えてしまった

変わらないのは街並みと思い出、
悲劇のヒロインに酔いしれる私だけ


さようなら、私の愛した人
さようなら、私の思い出

さようなら、あなたが全てな私
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