rain of teardrop【黒バス/ジャバ】
第36章 the beginning of hell
『あ……、ひィ…あ……』
『好いのかよ……慣れは怖えな、まったくよ』
『っ……そ、れ…』
『あー……ココか?!ん……おい…首締め付けんな……苦しいだろうが』
『ッ……だって…、んん……ア……!はぁ…』
きっと、シルバーに奪われるのは時間の問題だ。
歪んだ性癖に目覚めない限りは守られたままであろう、その尊厳。
拒んでしまうのはむしろ自然だろうと言ってのけるシルバーの成長にも驚きながら、名無しは絶えず、シルバーにぎゅっとしがみついていた。
『……つくづく狂わされてるな……オレもよォ。……ほーら舌出せや…名無し?』
『…ん……』
『――別に急がねえよ……。だからそんな締めんなって……殺す気かっての、……ハッ』
『!』
途中、耳元で確かに聞いた冗談さえ、彼に起きた変化をよく物語っている。
名無しが腹の奥をきゅうっと疼かせてしまったのは、シルバーにどこか男らしいものも感じていたからかもしれない。
彼なりに一歩一歩進み、ただの野蛮な存在がそうでなくなってきているのだとしたら、両手を広げてそれを受け止められれば、あるいは理想にも近付けるだろう。
本当の本当に過去を清算して、もしも、ちゃんとした関係に今からでもなれるとしたら……――。
「……!あ…」
自分の頬にその厚い唇をあてがい、何度も優しくキスをしてくれたシルバーに、ほんの僅かに可能性を抱く。
そのまま抱かれた光景までを思い出した名無しは、頬の熱を自分の手で確かめていた。
そしてまたされたいという願望を持ちながら眺めた携帯には、偶然にも、シルバーからのメールが届いていた。
「……っ」
会えないと思っていたその日に呼び出されたことが嬉しくて、返事を打つ指先が少し震える。
嬉しいと素直に思うことに持っていた酷い抵抗感さえ、名無しのなかではもうすっかりと薄れていた。
もっとも、シルバーへの可能性を少しでも見出せたと思った矢先、よくある悲劇に例外なく巻き込まれることなど、今の彼女が知る筈もなかったのだが――。