rain of teardrop【黒バス/ジャバ】
第35章 the price of choice
――
―――。
「………はぁ」
重くないため息をつく。
ただ息を吐いただけ、と言えば正しい形容だろう、名無しは携帯の画面をじっと見つめ、親指で何度か画面を叩いた。
鳴り響いていたのは着信音ではなく、メールの受信音だった。
アプリを開いて中身を確認すると、そこにはシルバーからの呼び出しがかかった内容が記されている。
名無しは、やはり特に動揺はしていなかった。
「……」
携帯ともうひとつ、視線を往復させるのは、自室のテーブルの上に置いていた菓子箱だ。
名無しは約束どおり、シルバーに渡す菓子を作り、それを箱に包んで出かける準備をしていた。
別に恋人気分で作ったわけじゃない……作れと言われたからそうしたまで。
あの日以来、シルバーとの心の距離は大幅に縮んだけれど、それが正しいのかは未だに分からない。
それに、縮む度に不安が膨れ上がっていたのも事実だった。
「……」
怯えが消えたのは、彼に対して「だけ」。
あの男にどこでどう壊されるかもしれないと思うと、名無しは結局、背筋を凍らせていた。
その恐怖心を掻き消してもらうために、今は好んでシルバーに抱かれているような気がしてならなかった。