rain of teardrop【黒バス/ジャバ】
第24章 nothing in return
「……」
到着した電車の乗車率は決して低くなかった。
が、かといって高すぎるわけでもなし、疎らという形容がよく似合っていた。
「……」
自分の立っていた乗車位置に電車が停まると、あとは当然扉が開いたのち、その中へと一歩進めばいいだけだ。
乗ってしまえば所作は完了する。
目的の駅にだって行けるし、この時間帯なら割かし好きな座席に腰も下ろせるだろう。
名無しは電車が停まった瞬間、ざわついた胸の奥のそれを鎮めんとするべく、自身の左胸を片手で抑えつけた。
軽やかに動かせるはずの、車両へ進むための第一歩が踏み切れない……。
揺れる心情に眉を顰め、鞄を持つ手にも力が入ったり、また、抜けもしてしまったり。
「はぁ……」
数秒ほどで電車は行ってしまう。
だからさっさと乗らなければ置いて行かれるし、横切ってゆく他人の視線も、名無しはまあまあ痛々しく感じ始めていた。