rain of teardrop【黒バス/ジャバ】
第24章 nothing in return
「ッ……あいつ…マジかよ」
見開いた目は数秒間。
元の大きさに戻るまではなかなかに時間がかかった。
それほどシルバーが目にしたもののインパクトは強く、彼は一瞬、喉の渇きを失念するほど驚愕していた。
「――あークソ……ッ」
無機質なシンク台の一箇所に映える暖色のもの。
当然シルバーはそれに見覚えがなく、まず目にしたことで覚えていたのは新鮮さだった。
これは何だ、と疑問に思いながら手を伸ばせば、それは名無しが用意し、置いて行ったものだということが理解出来た。
「~……ッッ!」
女の思考など、数多その身を跨いできたシルバーにとっては容易く汲み取れるものであろう。
が、自分を拒み、ベッドのなかでだけ従順な牝猫になり下がる名無しの気持ちが、彼はこの瞬間掴み切れなくなっていた。
どういう想いのもと「これ」を置いて帰っていったことか……。
もっとも、異性に渡すということの意味を辿れば、そう悩む必要もなかったのだけれど。
ただ、やはりそこはシルバーである……一考を見せ出した答えに自ら納得すると、次の瞬間にはキッチンから寝室へと向かい、着衣のために彼は服を手にとった。
「……」
眠っていた彼がわざわざ着替えたのは他でもない、どうにも身体が再び疼き始めていた、その症状を和らげるただひとつの、ただ一人の存在を追うためである。
部屋を飛び出したシルバーが手にしていたのは、名無しが友人宛てに作っていたものと同じ、菓子の入った箱だった。