rain of teardrop【黒バス/ジャバ】
第24章 nothing in return
手にした鞄の軽やかさが目立つ。
それはもともと入れていたもののひとつを置いてきたことが原因なのだけれど、名無しはスペースの出来た鞄の中を覗き見、歩きながら小さなため息を吐いた。
「……」
そこには自分の持ち物と一緒に、友人に渡すプレゼントが入っている。
シンプルに、けれど華やかだったリボンの結ばれた小さな箱。
中はというと、自作の菓子と、あとは友人が予てから欲しがっていたアクセサリーが詰められていた。
男から貰うべきだろうと指摘すると、交際相手には別のアクセサリーをねだっているから問題無い、と返答され、会話に小さく笑いが起きたのもなかなか記憶に新しかった。
決して安いものではなかったけれど、だからといって高すぎるというわけでもなかったから、名無しは快諾してそれを誕生日プレゼントにあてていたのだ。
「……」
相手は勝るとも劣らず、知己に等しい長い付き合いの友人である。
毎年のことなのだから、プレゼントを渡せば、おそらくは自分のときにもそれが返って来るだろう。
が、楽しみだと思いつつも、名無しは一瞬でその気持ちを自ら掻き消していた。
「ッ……」
自分がアクセサリーを選んだがゆえに、同じように、もしも耳に関する装飾品を渡されたら、そのときはどうすればいいのだろうか……。
今付いていた、付けさせられていたピアスを自分の意思で付け替えることが、いよいよ出来るだろうか――。
「……はぁ。……」
ネガティブになってはいけない。
考えることも心によくない。
直後名無しは一生懸命気持ちを切り替えると、背筋をぴんと伸ばし、道なりを進んで駅へと向かった。
拭いきれない、背後から訪れるかもしれない気配に込めた、甘い期待さえも捨て去りながら……。