第4章 ジンベエザメの試練 ふたたび
「・・・・・・」
「・・・・・・」
少し沈黙が続く。テレビの音だけがリビングに響いている。
・・・やばい。とりあえず元の空気に戻さねえと。そう思い、『ほら、映画の続き観るぞ』とでも言おうとした。
その時、ヒカリがぽつりと呟いた。
「あの・・・今、やってもらったらダメですか?」
「・・・・・・は?」
「宗介さんのそこ・・・行きたいです・・・ダメ、ですか?」
ヒカリが頬をほんのり染めながら指差す『そこ』は俺の脚の間だった。
「・・・別に・・・ダメじゃねえよ・・・」
・・・いやダメだろ、バカか俺は。断れ、ヒカリのお願いぐらい。うっとうしいやめろ、とでも言ってやれ。
「えっと・・・じゃあ、失礼します」
そう言うと、ヒカリは立ち上がり俺の脚の間にちょこんと腰掛けた。ふわりとあの甘ったるい香りが俺の鼻に届く。
なるべくヒカリに密着してしまわないように、ソファーの背もたれに目一杯寄りかかるようにする。多分、これならなんとか・・・・・・
次の瞬間、ヒカリがくるりと俺の方を振り返った。
「あ、あのっ・・・ぎゅー、もお願いしたらわがまま・・・ですか?」
「・・・別に・・・わがままじゃねえよ・・・」
さすがにそれは断ろうと頭では思っていたのだったが、口から出てきたのはまったく逆の言葉だった。俺は後ろからヒカリの身体を抱きしめた。身体が密着して、甘ったるい香りがより強くなる。
「ふふふ、嬉しい・・・」
ヒカリは俺に寄りかかるようにして体重を預けてきた。その小さな手が、俺の手の上に重ねられる。
「やっぱり、こうしてるとあったかいし、すごく落ち着きます・・・宗介さんは?」
「俺もまあ・・・そんな感じだ」
もっと落ち着かなくなるだろうし、さすがにやばいだろうと思ったが、意外にこの体勢は俺の心を落ち着かせた。抱きしめるのにちょうどいい、ヒカリの身体のサイズとか、柔らかい感触とか、少し高めの体温とか、その全てが、ずっとこうしていたいと俺に思わせた。
「・・・宗介さん、テレビ見えづらくないですか?」
「別に・・・お前、ちっこいし、平気だ」
「よかった、ふふ」
そうやって笑うヒカリ。腕に少しだけ力を込めた。