第2章 ジンベエザメの試練
そしてまた1時間ほどが経過した。かなり集中して取り組んだからか、残りページも少なくなってきていた。
「あ・・・なんか難しそうなの来ました」
「おお・・・まあ、落ち着いて今までどおり解けば大丈夫だ」
とは言ったものの、それはなかなかに厄介な問題で直接問題集に書き込んだりして教えてやるが、上下逆さまなので、どうにも教えづらい。そして・・・それを察したのかヒカリがとんでもないことを言い出した。
「・・・私、そっち側行った方がいいですよね?」
「は?」
「だって、その方が宗介さん教えやすいですよね?ちょっと待ってくださいね」
そう言うとヒカリは問題集を手に、俺の隣にやって来てすぐ隣にちょこんと正座した。肩と肩、膝と膝が触れ合って、ヒカリの髪から例のあの甘ったるい香りがふわっと漂ってきた。
「これでいいですよね?それじゃ、お願いします」
「お、おお・・・」
再び説明を始めるが、正直自分で自分が何を言っているのかよくわかっていない。だが、ヒカリがふんふんと頷いているところから察するに、どうにかちゃんと教えてやれているのだろう。それならいい。
・・・・・・でだ。
・・・ずっと・・・今日会った時からずっと思ってて、気付かないふりしてたんだけどよ・・・・・・何でこいつは今日に限って露出の多い服着てんだよ!胸元開きすぎだろ!見えそうだろ!ミニスカートとかバカか!見えそうだろ!何可愛い格好してんだ!上下ジャージか着ぐるみでも着てろ!!
・・・・・・この短時間で、俺は心の中では激しくつっこみながら、口では難しい数学の問題を説明するという高等技術を身につけたのだった。
「・・・あと3ページで終わりか・・・・・・頑張ったな、よく・・・」
「はい!ありがとうございます!宗介さんのおかげです」
ちなみに『頑張ったな』は主に自分自身への褒め言葉だった。しばらく複雑な応用問題が続いたため、1時間近い時間を俺はヒカリの隣で耐え抜いた。
・・・・・・よく我慢したと自分を褒めてやりたい。