第26章 ふたりの、初めて。 その3
宗介さんの様子がおかしい。元々宗介さんはあまりおしゃべりな方じゃないけど、今日は特に口数が少ない。ううん、今日、じゃない。ショッピングモールを出るぐらいまでは普通だった。でも、私の家に向かうために電車に乗った辺りぐらいから、急に話さなくなった。私が何か話しかけても『ああ』とか『そうか』とか、素っ気ない返事ばかり。視線はどこかよくわからない所をずっと見つめていて。
それは電車から降りて、私の家に向かって歩き出すと余計ひどくなった。私が話しかけないと宗介さんは何も話してくれない。さらにその素っ気ない返事ですら、ワンテンポもツーテンポも遅れて返ってくる、という感じだった。
それに・・・・・・
「・・・・・・はぁ・・・」
・・・ほら、またため息ついた。それはとても小さいものだったけど、すぐ隣にいる私にはよく聞こえてくる。電車の中からこれで何度目だろう。
・・・やっぱり、イヤだったのかな?
・・・ううん、そんなことない。たまたま今は宗介さん、話したくない気分の時なんだ。外、寒いし!きっと、そう!
無理矢理に自分を奮い立たせるけれど、そんな私の耳にはまた宗介さんのため息が聞こえてきて、心がずっしりと重くなった。
「あの・・・どうぞ」
「ああ・・・お邪魔します」
家について、鍵を開けて宗介さんを招き入れる。
玄関でブーツを脱ぎながらふと、私は考えてしまう。宗介さんに、リビングと私の部屋、どっちに行ってもらえばいいんだろう?
いきなり私の部屋だと、なんだかもうすごくやる気満々みたいだし、そうかと言ってリビングだとお前やる気あるのかよって思われちゃいそうだし、そこから部屋まで移動するのもすごく間抜けな気がする。でもいきなり部屋に行くなんてやっぱり恥ずかしいというか・・・
「・・・ヒカリ?どうした?」
ブーツを脱ぎかけの状態で固まっていた私の顔を宗介さんが覗きこんでくる。いきなり宗介さんの顔が近付いてきて、一気に鼓動が早くなる。