第2章 ジンベエザメの試練
「あはは!大丈夫ですよ、そんなに気を遣わなくても。私、飲み物とってから行くので、宗介さん、先に私の部屋に行っててくれますか?私の部屋、階段上がってすぐです」
「・・・あ!なあ、ヒカリ」
「はい?」
ここで俺はとてもいい考えを思い付いた。
「お前の部屋じゃなくって、リビングとかでやらねえか?」
これはかなりいい考えだと思った。どうして今まで思いつかなかったんだろう。リビングの方が、ヒカリの両親の気配とかが残ってるだろうし、俺が余計なことを考えないですむ。
「あ、ごめんなさい。今すっごく散らかってて。友達とか呼んでも絶対入れちゃダメ!ってお母さんが」
「・・・そうか・・・なら、まあ・・・仕方ねえな・・・」
・・・どうやら本気で俺は覚悟を決めないといけないようだ。
少し重い足取りで階段を登って、すぐ側のドアを開ける。
ヒカリの部屋は、女の部屋ならこんな感じだろうなと予想がつく、まあごく普通の部屋だった。パステルカラーを基調にしてあったり、いくつかぬいぐるみが置いてあったり。
なるべく余計なことは考えないように、そしてなるべくベッドの方は見ないように、ヒカリの部屋へ入る。
・・・だが、そんな俺の努力を無駄にしようとするのは、この部屋に漂う香りだった。ヒカリを強く抱きしめた時に漂う、甘ったるくて、歯止めがきかなくなるようなあの香り。普段ヒカリが生活してる空間なんだから、当たり前といえば当たり前だが、この香りだけで妙な気分になってしまいそうだった。
「はぁ・・・これで耐えろとか・・・マジかよ・・・」
ため息混じりにまたそう言うと、ふと小さなラックの上にある写真立てが目にとまった。手にとって見ると、それは高校入学の時にこの家の前で撮ったであろう写真だった。岩鳶の制服を着たヒカリを真ん中にして、恐らくヒカリの両親であろう二人がその両隣に立っていた。二人とも、背格好はあまりヒカリと変わらず、小柄だった。そして、笑った顔がヒカリによく似ていた。