第2章 ジンベエザメの試練
・・・そんなわけで今に至る。
俺が呆然としている間に話はどんどん進められ、電話を切った後も、この状況が信じられず、何度も『マジかよ』と俺は呟いたのだった。
「いや・・・マジかよ」
・・・また言ってしまった。
・・・いやありえねえだろ。ガキっぽいし、色々無防備だし、何もわかってねえな、と思うことはこれまでもあったけど、わかってなさすぎだろ。誰もいない家に男を呼ぶ意味、100%わかってねえだろ、あいつ。わかってたらあんな軽々しく誘わねえだろ。
「・・・やっぱ場所、かえるか・・・」
ここまで来ておいて、場所変更はヒカリにおかしいと思われるだろうが、仕方がない。お互いの・・・いや、というよりも俺自身のためだ。
そう決意を固めた瞬間に、ドアが開いてヒカリがひょっこりと顔を出した。
「あ、やっぱり宗介さんだった!」
そう言って、俺に小走りで近寄ってくるヒカリ。
「なかなか来ないから宗介さん、また迷子になってるのかなって思ってたんですけど、窓から外を見たらそれっぽい人がいたので」
「あ・・・あー・・・わりぃ」
ああでもないこうでもないとヒカリの家の前で悩んでいるうちに、約束の時間を過ぎていたようだった。
「さ、どうぞ。宗介さん」
「あー・・・あのな、やっぱ・・・」
「大丈夫ですよ。電話でも言ったけど、誰もいませんから!」
・・・なんっていい笑顔で言いやがるんだ、こいつ。
おかげで場所の変更を提案することができず、俺はヒカリに誘われるままに、ヒカリの家へと足を踏み入れたのだった。
「・・・お邪魔します」
「はい、どうぞ」
「・・・あー、なんか土産でも買ってこようと思ったんだけどよ、ボーッとしてて忘れちまった。わりぃ」
これは事実だった。さすがに手ぶらで家に上がるのもどうかと思ったから、何か手土産でもと考えてたんだ・・・寮を出るまでは。
だが、そこからはずっとヒカリの家に二人きり、とかあいつ何考えてんだ、とか何も考えてねえよばか、とかそんな考えが頭の中でぐるぐる回り続けて気付いたらもうヒカリの家の前に来てしまっていたのだった。