第12章 思惑
騒ぎから、一刻もたたない頃。
襲撃のあった林に身を潜めていた一人の男が、とある御殿へと走り向かう。
その目の前に、木の上から悧月が道を塞ぐように現れた。
九兵衛「・・・っ!!何者だ?!」
「明智殿の家臣、久兵衛殿とお見受けいたします。わたくしは、信長様直属の隠密、悧月と申します。」
久兵衛「信長様の?」
「はい、これを明智殿に。詳細は後程、信長様より伺うよう明智殿にお伝えください。」
久兵衛「しかし・・・」
「これは、まぎれもなく、信長様よりの命です。時間がありません。大きな戦を控えた今、戦力を削がれるのは織田軍にとって打撃は大きくなります。」
久兵衛「わかった。光秀様に届けよう。」
「お願いいたします。」
書状を受け取り、久兵衛は止めた足を再び動かし、光秀の御殿へ急いだ。
「戻ったか、九兵衛。」
九兵衛「光秀様、厄介なことになりました!信長様を襲撃した七里の一団は、秀吉様に全員捕まり・・・・あろうことか、光秀様が共犯者だと、その場で自白を・・・・っ」
「ほう、そうきたか。」
大して驚く様子もなく、光秀が眉を軽く上げる。
九兵衛「それで、これを、信長様直属の隠密、悧月と名乗る方から預かって参りました。」
「信長様直属の?・・・」
光秀は首を傾げながら、書状の中を見る。
「これは・・・」
久兵衛「いったい何が書かれているのでしょう?」
「七里たちの親玉、要は顕如の居所だ。」
久兵衛「まさか!?」
「ほかに、何か言付けはなかったか?」
久兵衛「あ、はい。詳細は後程、信長様に伺えと。大きな戦を控えた今、戦力を削がれるのは軍の打撃になる。と。」
「なるほど。では、城に出向き、これを皆に伝えれば良いわけだな。俺の手柄として。」
久兵衛「・・・本当に信じて良いのでしょうか?もし、罠で今追わなければ・・・」
「確かに、怪しいがこの書状には信長様直筆の刻印がある。信じるに値するだろう。久兵衛、お前は念のため、方々に放っている斥候たちに連絡を入れろ。」
久兵衛「かしこまりました。」
九兵衛が、音もなく立ち去ると----光秀がゆっくりと立ち上がり、羽織の襟を整えた。
「では、城に出向くか。秀吉も、迎えをよこす手間が省けるだろう。」