第12章 思惑
なつを送り届け、宴の続く広間へと戻った秀吉は、かすかに表情を曇らせていた。
「ようやく戻ったか、秀吉。」
「-------おう。」
「なつ様がご気分を悪くなさったと聞きましたが、御加減は・・?」
「部屋に連れて行って休ませた、少し酔っただけみたいだから、一晩寝ればよくなるだろ。」
武将たちの輪に加わる秀吉の顔から、先ほどの憂いがきれいに消え去る。
「それを聞いて安心しました。」
「で、お前となつはどうなってるんだ。」
「なんの話だよ。」
「さっき広間から連れ出した様子、もう兄妹に見えなかったって意味ですよ。」
「見てたのかよ、お前ら・・・・」
「俺をけん制したのはなつを手元に置くためだったと、潔く認めろ。」
「秀吉、俺の物に手を出すとは良い度胸だな?」
「お館様まで・・・っ。決してそのようなつもりはございません!」
「貴様は、俺がなつに夜伽を命じても同じセリフを吐けるか。」
「・・・どう答えるかは、なつ自身が決めることです。」
「ほう。では俺が、なつをどう扱おうが問題はないな。」
「と言いますと・・・?」
「明日、足軽兵の訓練の仕上がりを確認に出向く。なつも連れてこさせろ。」
「なぜなつをそのような場所へ・・・・」
「あの女をそばへ置いて楽しむだけだ。なつの身を案じるならば、貴様も明日、ともに来い。」
「・・・秀吉さんの反応を見て楽しむつもりでしょ、信長様」
「家康は黙っていろ。」
「で、どうするんだ、秀吉。」
「---どうするも何も、同行する。俺は信長様の命に従うまでだ。」
「秀吉さん、少しお酒でも飲んだ方がいいんじゃないですか」
「は?どうしてだ。」
「あんたは本音を隠すのがうまいからですよ。他人にも自分にも。」
「・・・・そんなことはない。」
「言っても無駄だぞ、家康。この男ほど融通が利かないやつはいない。」
「放っとけ・俺のことより・・・光秀はどうした。姿が見えないが。」
「少し酔われたそうで、先に御殿へ戻られました。」
「・・・珍しいこともあるもんだな。」
「”珍しいこと”で、あることを願いたいですが・・・・」
「・・・同感だ。」