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意のままに

第11章 日常~3~







秀吉の部屋の前で立ち止まり、なつは騒ぐ胸をそっと抑えた。
昨日は、秀吉から受け取った文を何度も読み返した。

”前略 なつ様
明日、俺の御殿に遊びに来い。一日暇ができたから・・・・あられの礼をする。一日構い倒すから、そのつもりでいろよ?”



兄貴分らしい優しい言葉が、嬉しいけれど嬉しくない。
嬉しくないけど、やっぱりうれしい。
本当に、困ったものだ。


なつはいつもの笑みを張り付け、声を掛ける。
「秀吉、入るぞ。」

「なつか、ああ。」
秀吉の返答に、なつは襖を開く。
「相変わらずだな、まあ、よく来たな。」
「ああ・・・。ありがとう。」
「こちらこそ。差し入れのあられ、うまかった。」

さらりと褒めた後、秀吉は座布団を勧めてくれる。
いつも通りの、優しい兄のような笑顔を浮かべて。


何事もなかったみたいな顔をしてるな。というよりも、秀吉にとっては何事もなかったも同然なのかもしれんな。


少し、悲しく思いつつも、これ以上失態を重ねないよう内心を隠す。

「今、茶の支度をする。差し入れの礼だから、”私がやる”っていうのはナシだぞ?」
「ああ、勿論だ。」
「よし、待ってろ。」


嬉しそうだな・・・


嬉々としてお茶の支度をする秀吉を、なつは黙ってみていた。
秀吉は姿勢正しく正座をし茶筌を手に取ると、鮮やかな手つきでお茶をたてていく。


秀吉は茶人としても有名だったからな。利休との話は現代で知らん人間はいないだろう。・・・いや、蜜姫が知ってるか怪しいところだな・・・


茶碗が静かに前へと置かれた瞬間、気持ちがすっと引き締まった。

「作法なんかは、気にするなよ。俺とお前しかいないんだから。」
「フフ、そう言うな。知らんわけじゃないからな。」
茶碗を傾けると、柔らかくてほろ苦い抹茶の味が舌の上に広がる。

「ああ・・・美味いな。」
「そりゃよかった、じゃ、かしこまるのはここまで。菓子も用意したからたくさん食えよ?」
「ああ・・・・」

「礼にしては、豪華すぎじゃないか?」
「ただの手作りじゃなくて、”なつの”手作りだ。この程度安いもんだろ。」


人の気も知らないで、さらっと言ってくれる。


当然だと言いたげな秀吉の口ぶりに、なつは返答に困る。






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