第9章 日常
その日の夕刻。
なつは再び、信長の元へ来ていた。
「信長様。」
普段のように、襖からではなく、天井裏から信長の前に降り立ち、膝を就き、頭を下げる。
「悧月か、どうした。」
「ことが、色々と動き始めています。光秀の件も。」
「ああ、光秀の件に関しては、ある程度想像はついていよう。動きがあるまでしばし待て。」
「御意。しかし、蜜姫についていかがいたしましょう?目につけば厄介事の可能性も。」
「ふむ・・・それに関しては、なつが表立つよう光秀には言いつけてある。」
口角を上げる、信長になつも笑みを浮かべる。
「・・・端から、私が犠牲者と言うわけですか。」
「不満があるか?」
「いえ、この件に関しては元々そのつもりでした。では、くれぐれも彼女について騒がれないよう、ご注意ください。」
「ああ。」
「それから、上杉、武田側に関してですが、あちらにも優秀な隠密がおります。」
「三ツ者のことか?」
「いえ、軒猿の中でも飛びぬけたものが1人。名を佐助。」
現代仲間ではあるが、現状は敵でしかない。
蜜姫とは違い、存在は知らせておいたほうが今後の為だと話す。
「ほう。貴様より上か?」
「いえ、力で言えば私には及びませんが、情報の収集能力は中々です。みすみす情報を渡さぬよう、注意を払うのがよろしいでしょう。何度か城内にも忍び込んでいます。」
「フン、面白いことになりそうだ。悧月、今後も都度情報は探れ。」
「御意。」