第9章 日常
「七里には近づくな。いいな?」
「当り前だ。誰があんなのに好き好んで近づくか。」
「それならいい。俺から忠告を受けたことは誰にも言うな。言ったらその口、二度と聞けない様にぬいつけてやる。」
鮮やかに微笑み、光秀が人差し指を私の口元に差し出し、ちょん、と唇をつつかれる。
「・・・」
「-----では、もういけ。」
「ああ。」
笑みを浮かべうなずくなつに光秀も笑って見せて、七里を追って歩み去った。
口を縫い付けるなんて、あれが言うと冗談に聞こえないな。
苦笑を浮かべ、これからの自分の行動を整理する。
用事を終えた後、私は秀吉さんの御殿に立ち寄った。
「こんにちは。突然で悪いが、秀吉はいるか?」
「まあなつ様、よくいらっしゃいました。お取次ぎしますのでお待ちください。」
顔見知りになった女中とあいさつを交わし、玄関先で待つ。
なんとなく、秀吉の太陽みたいに眩しい笑顔が見たくなった。
あの笑顔を見ると、不思議と安心できる。
「いや、不思議ではないか・・・」
思わず、苦笑を漏らしていると。
「なつ様、こんにちは。」
「ん?三成・・・?」
「なつ様がいらっしゃったと聞いて、秀吉様の代理で参りました。」
「秀吉は御殿にいなかったか・・・」
「それが・・つい先ほど城へ出向かれて、ご不在なのです。私も必要な書簡を取りに寄っただけなので、すぐ城へ向かいます。」
そう告げる三成は、どこか緊張感を漂わせている。
ああ、そちらも動き始めたか。
後で、信長の処へ行ったほうが良さそうだな。