第5章 動き出す運命
毒物事件から一夜明け、秀吉はなつの部屋の前にいた。
「なつ、いいか?」
「どうぞ。」
入る前に、一声掛けると中から了承の返事があり、襖を開ければ、なつは壁に寄り掛かるように座り、書物を手にしていた。
「少し、待て。」
「・・・ああ。」
なつは書物から顔も上げず、言う。
そんななつに秀吉は、対面するように腰を下ろし、なつが顔を上げるのを待った。
今更だが、こいつ、綺麗な顔してるな・・・
切りの良いところまで読み終えたのか、栞を挟み書物を閉じた。
「待たせたな。」
「いや、お前は読めるんだな。」
「?・・・ああ、まあな。それより、何かあったか?」
言葉を濁し、秀吉に訪問の理由を尋ねる。
「・・・家康から報告は受けたか?」
「毒に関してか?昨日の夕刻に来たぞ。」
「そうか。なつ、今まで悪かった。」
秀吉は言いながら頭を深々と下げた。
「必要ないと言ったはずだ。」
「それじゃ、俺の気が済まない。」
「自己満足か?」
「ッ!!それは・・・」
「フフ、私は疑われて当然な態度を取っていた。だから貴方に非があるとは言えんだろう。」
「何故、あんな態度でいたのか聞いてもいいか?」
「そうだな、強いて言えばこれから先暫くは世話になるのに己を偽るほうが後々面倒だろう?」
「それは、そうかもしれないが・・・」
「私は蜜姫と違う。表の顔を作って過ごすのは簡単だが、もし、本当に親しくなった時素を見せれば最初に逆戻りすると思わないか?」
なつは相変わらず妖艶な笑みを湛えている。
「・・・」
「まぁ、ここには私と似たような奴がいることには驚いたがな。」
「それは、光秀のことか?」
なつは秀吉の言葉に、笑みを深めることで答える。