第15章 思惑~3~
なつを襲った三つ者たちは夕刻には、越後より手前。
既に進軍してきていた、上杉・武田軍に合流した。
「やあ、よく来てくれたね。」
「・・・なぜ、私を?」
なつは怯えたように、信玄に言葉を返す。
「そう怯えないで。君に危害を加える気はないよ。ただ、信長を誘き出すのに利用させてもらうだけだ。」
「そんな!信長様は私一人のことで動いたりは!!」
「お嬢さん、残念ながら、信長は既に兵をまとめ、出立の手筈を整えているよ。」
「あなたは・・・」
顕如も話に交じってくる。
ああ、ホント思惑通り過ぎて、声を上げて笑いたいくらいだ。
勿論、計画を台無しには出来ないから、演じ切るがな。
「何はともあれ、逃げ出そうとは考えないでくれよ。俺たちも手荒なことはしたくないからな。」
「生ぬるいな。」
「俺は、奴の首を取りたいだけだからな。こんな天女のような娘を巻き込みたくはない。」
そう言って、妖艶な笑みをなつに向ける。
「君が、俺のものになるって言うなら大歓迎だよ。」
そう言って、手を取る信玄の手を振り払った。
「私は、何があろうと、あの方のものです。」
強い眼差しは作るが、決して悟らせないよう体を震わせる。
「それは、残念だ。まあ、あいつの最後をしっかり見届けるんだな。」
信玄は、悲しそうに笑いながら、三つ者に天幕に連れていくよう指示した。
「逃げ出そうとは考えないように。」
そう言いながら、なつの手を前で括る。
「ふふ、武田信玄。既に、虫の息ね。」
「なっ?!」
「静かに。ねえ、面白い薬を譲ってもいいわ。」
「・・・」
「毒じゃないわよ。肺に効くの。今にも倒れそうな君主にはもってこいじゃなくて?」
「信用出来ん。」
そう言うと、なつは出した包みを開け、中の白い粉を少し、舐めて見せた。
「なっ!」
「常人が飲むのもあまり良くはないけれど害はないわ。」
言いながら、包みを戻し、三つ者に握らせる。
「私とのやり取りは内密にね。効果は飲んでから四半刻ほどで現れる。痛みや吐血が緩和されるわ。」
「・・・」
三つ者は、無言でなつを見つめ、やがて天幕を後にした。