第2章 破滅【序】
夕刻
エルヴィンは自室に愛を呼び、一枚の紙を差し出す
エル「アイ、今からの事は私とお前だけの秘密だ。それを踏まえて、この書面に目を通して欲しい」
『はい』
張り詰めた空気の中、アイは静かに書面に視線を落とす
そこにはニコラス・ロヴォフの身辺調査の報告書と記されており、最後に憲兵団の印が押されていた
主な潜伏場所から、取引先の商会
更にはよく行く店、服の趣味
そして女の趣味までもが細かく書かれている
エル「それをお前に見せた私の意図が分かるか?」
『はい』
静かにアイは頷く
ピンと張り詰めた空気の中、二人の視線はお互いを捉えたまま離れる事はない
エル「人類の未来の為に、お前の力が必要だ。どうだ…やってくれるか?」
『勿論です、私にやらせて下さい』
エル「…そうか」
アイの答えにエルヴィンは安堵の色を浮かべるが、直ぐにその表情は曇る
エル「すまないと思っている…本来ならば父親である私が、娘のお前に頼むべき事では…いや。言っておいて父親を語るのも烏滸がましいか…」
頭が良く、何も口に出さずとも自分の考えを理解してくれる娘
今自分がアイに求めているのは父親ならば決して求める事はない、求めてはならない
"ハニートラップ"
人類の為に心臓を捧げた一人の兵士として
心を鬼にしなければならない…
そう、アイを部屋に呼び出した時に腹を決めた筈だった