第4章 破滅【奪】
アイSide
ロヴォフ「…どうしたのだ?アイよ、心ここにあらず…といった顔だな?酒が口に合わなかったか?それとも先日会えなかった男の事でも考えていたのか?」
勿論そんな男なんて私には居ないけれど、私により興味を持たせるには充分な嘘だった
まさか、出会いから今に至るまでの全てが仕組まれたものだったとも知らず
この男はどこまでも私に騙される
ただ、あの時出会った果物屋の店主の優しさには心が痛んだ
リンゴをおまけしてくれた時の優しい笑顔や、身を挺して私を庇ってくれた姿が頭から離れない
必ずまたリンゴを買いに、あの店に行こう
その時は、私の嘘に巻き込んでしまった事を心から謝りたい
そして『ありがとう』を言いたい
調査兵団のアイ・スミスとして…
『も、申し訳ありません。決してその様な事は…ロヴォフ様には何から何まで良くして頂いて、とても感謝しています。だからその…それをどうお返ししてよいものかと考えておりました』
ロヴォフ「ハハッ、そうだったのか。要らぬ心配を…本当に可愛い奴だ。それならば今夜、楽しみにしておこうではないか」
『は、はいっ…』
私の演じる淑女が余程お気に召したご様子のロヴォフ
こうも簡単に手のひらで転がってくれると、面白くてクセになりそう
あらかた調べ尽くした屋敷の中で、ロヴォフが証拠を隠しているとすれば金庫のみ
或いは肌身離さず持っている可能性も含めて、この機を逃す訳にはいかない
逃しはしない、絶対に…!
思わず口角が上がってしまった私は、恥ずかし気に頬を染める可愛いロヴォフの女の仮面で誤魔化した
最初からこんな汚い男に抱かれてやる気なんてさらさらないもの
心臓は人類に捧げる
でも、私の"初めて"は好きな人に捧げてもいいでしょう?