第7章 願うのはひとつ
「私がやってもいいのよ。
でも、ちゃんはあの人が好きなのよね?
告白しても受け入れて貰えなくて。
それなら、手段なんて選んでる場合じゃないじゃない」
「私はそんな汚い手を使ってまで!」
そう叫んで訴えても
アリサさんは余裕の笑みを浮かべたまま。
「あなたの好きってその程度?
キレイ事じゃないそんなの。
不幸になるって分かりきってる相手と一緒になろうとしてるのよ?」
そんなのわからない!ってそう、叫んだらいいのに
何も言えずに言葉を飲み込んだ。
「でも……居場所もわからないし。
ふたりきりになれる理由も私にはない」
家を出たお兄ちゃんと一緒にいる時点で
簡単に見つかるわけがないし、私のことも警戒するはず。
「やっぱり私っ」
そう叫んだ私に、
アリサさんは、カバンから取り出したメモを渡してきた。
「ウチが不動産関係を手広くやってるの、知ってるでしょう?」
「え、」
「ふたりの居場所なんてもうわかってるわよ。
あと、コレね」
透明の袋に入った白い粉末。
ドクン、と跳ねた心臓が危険信号を示してる。
「これ…なんですか……」
「安心して?合法よ。
睡眠薬みたいなモノだから」
「む、無理です!
私、出来ません!!」
そう言い放って、鞄を手にした私に、アリサさんの冷たい声が響く。
「そう。残念ね。
それなら他の方法考えるわ。
もっと手荒になっちゃうかも知れないけど」
「そんな…っ」
「私はね、翔さんさえ手に入れば問題ないの。
この話だって貴女の為を思ってのことよ?
私はあの男がどうなっても構わないもの」
無理矢理渡されたメモと小さな袋。
どうする事もできなくて
震える手で、それを握り締めた。