第6章 終わりの足音
絶対、心臓の音はマサキさんに聞こえてて
私も、触れた頰から、マサキさんが息を呑むのがわかった
あったかい体温も優しいにおいも
こんなに近くに感じてる
「ちゃ…ん
あの、……言ったばっかでしょ……」
「私、本気だよ。
マサキさんが誰でも抱けるって言うならそれでもいい。
私はマサキさんがいい」
本当に騙すようなずるい人が
自分からそんな風に言うわけない
仮にそれが事実だったとしても、
私はこの人がする事なら受け入れられると思った
「俺…ちゃんにそんな事出来ないよ」
「どうして!?お兄ちゃんとも酔った勢いなんでしょ?
私が子供だから!?他に好きな人がいる!?
それとも、やっぱりお兄ちゃんのこと…」
見上げた表情は、ただ辛そうで
やっぱりそうなんだって確信する
「違うよ。しょーちゃんとは
そんなんじゃない」
「じゃあ…」
マサキさんを抱きしめてた腕を緩め
ほっとしたような表情に気付かないフリして
震える指で、自分の着ていたカーディガンのボタンをひとつ弾いた
「ちゃん…?」
そのまま、ふたつ、みっつと弾いて
中のニットを掴みクロスした腕でそれを抜き取る
だけど、スカートのファスナーに手を掛けた瞬間
マサキさんがふわりと私を抱きしめた
「だめだよ。こんなの」
「だって私っ」
「ちゃんはこんな事しちゃだめだよ。
俺みたいな人間になっちゃうよ」
「マサキさん?」
包んでくれる腕が震えてる
声も掠れてる。泣いてる…の?
「もっと自分を大切にして」
それは、マサキさんの方だよ
ねぇ。そう言わせる貴方の過去に何があったんですか…
たったひとりで背負ってるんですか…
誰か支えてくれる人はいないんですか…
じわじわと込み上げた涙は飽和状態から、あっという間にポロポロ零れ出す
「私じゃだめ?
お兄ちゃんは結婚するんだよ。
私ならマサキさんとずっと一緒に」
ぎゅっと抱かれた肩はそっと離され、
視界には真っ赤な目をしたマサキさんが映る
黒い瞳に、泣き顔の私が見えた
「……ごめんね。ちゃん」