<イケメン戦国ショートストーリー集>戦国の見える蒼穹
第243章 特別な夜 ― 姫&家康 ―
「家康、お誕生日おめでとう」
信長様が催してくださった家康の誕生日を祝う宴が終わり、家康と私は御殿へ帰ってきた。
着替えて二人きりになった私は、家康に贈り物を差し出した。
「…」
包んだ布を開いて家康が目にしたのは、私がここのところ毎日依頼を受けたもの、と家康に嘘を言って少しずつ刺繍した羽織。
「確か注文を受けたものって言ってなかったっけ」
少し怒ったような口調で家康に問われ、私は慌てて謝った。
「そのぅ…嘘を言ってごめんなさい。家康のこの羽織を誕生日に贈りたくて…でも縫っているところを家康は目にするでしょう?だから依頼されたものって言わないと誤魔化せなくて…」
「そう…怒ってはいないよ。でも俺のために無理をしていなかったか気になってね…」
家康はふぅとため息をついて、でも私の刺繍した羽織を手にし、刺繍部分を撫でると私の顔を見た。
「とても良く出来ている。ありがとう。大切に着るよ」
微笑んでくれた顔は本当に喜んでいる表情で、私もつい笑みが浮かぶ。
「喜んでくれて嬉しいよ。良かったら普段着に使って。ほつれたりしたらすぐ繕うから」
そう言うと家康は、私の額をつんと人差し指で突ついた。
「何言ってんの。そうするとまた無理するでしょ。特別な時にこれは着るよ」
こういう時の家康はなかなか頑固なのを私は既に知っている。
だから余計な事は言わず「うん、わかった」で終わらせる。
それに恥ずかしながら、もうひとつプレゼントはあるのだから。