<イケメン戦国ショートストーリー集>戦国の見える蒼穹
第23章 ためいき ― 幸村&佐助 ―
「ああ、忘れるところだった」
嘘付け。
ぜってー忘れてないだろ。
「信玄様が、行商から戻る時に、安土の栗羊羹買ってきてくれって」
「栗羊羹!?誰がそんなもん買うかよ」
黙っていると朝餉も夕餉も甘いもので済ませちまう信玄様に、摂りすぎだと何回注意しても、俺の小言は流してばかりで困ってしまう。
「なんか、最近、安土でエラく人気の栗羊羹があるらしく、それが欲しいそうだ」
信玄様のからだを考えて俺は注意しているのに、本人には馬耳東風だから困る。
「佐助、その様子だと、俺がダメだと言っても、絶対おまえが買うな?」
「クリヨウカン、オレモ、タベタイナ」
無表情の棒読みで佐助がねだってくる。
「さーすーけー」
俺は絶対買わないが、きっと、佐助が買うんだろう。
だからこそ、信玄様は俺に直接言わず、佐助を通して依頼してきた。
面白いし、尊敬しているけれど、困った上司だ。
俺は、参ったな、と上司とトモダチに盛大にためいきをついた。
「…わかったよ、その羊羹、どこで買えるんだ?」
<終>