<イケメン戦国ショートストーリー集>戦国の見える蒼穹
第237章 White special day ― 武将&姫 ―
<秀吉の場合>
「こら、俺が居るのに、どこを見てるんだ?」
広間の障子を開けた瞬間、どこを見れば良いのか目線を彷徨わせる舞に秀吉が優しく声を掛ける。
「秀吉さん、これは一体…」と舞が聞くと秀吉は目尻を少し下げた笑顔で答える。
「今日はホワイトディとか言う日だって佐助が教えてくれたんだ。いつもおまえに世話になっているから、みんなでおまえを甘やかそうという事になって、佐助の提案したくらぶ乱世を広間に作ったんだ」
秀吉の笑みにつられつつ、舞は「くらぶ…らんせ…」と呟く。
「あぁ、さぁ、姫、こちらへどうぞ」
秀吉が片手を差し出し、舞はその手の上に自分の手を重ねると、秀吉はさりげなく信長の近くの席へ舞を座らせる。
「舞、何か呑みたいか?それとも政宗が作った料理もあるぞ。もしくは誰かに踊らせるか?」
秀吉がいたせりつくせりで世話を焼いてきて、あっという間に舞の前に杯と料理を盛り付けた膳が並べられた。
「ありがとう、秀吉さん…」
あまりの手際の良さに舞は驚くものの、秀吉が両手を叩くと広間の隅で控えていた琴と琵琶が音曲を奏でだし、武将たちが何人か扇を手にひらりと踊り出すのに更に驚く。
その踊りの鮮やかさと流麗さに目を奪われていると、秀吉が隣に座って酒を注いでくる。
「俺の注ぐ酒は呑めないか?ほら、政宗の料理も美味いぞ」とやけに絡んでくるのに気付き、舞が秀吉を見ると酔っているのかほんのりと目元が赤らんでいた。
「秀吉さん、酔ってる…?」と聞くものの、秀吉は「酔ってない」と言い張り、その会話を上段の信長がにやりとしながら杯を手に見ていた。
秀吉が舞の手を取り自分の頬に当て、ほぅと小さく息を吐く。
「舞の手は少し冷たいな。俺が後でたっぷり暖めてやるからな」
じっと秀吉は舞を見つめ、その甘い色を含んだ眼差しに舞は自分のからだがぐらりと傾ぐように感じ、今夜は眠れそうにないかもと覚悟するのだった。
<終>