<イケメン戦国ショートストーリー集>戦国の見える蒼穹
第228章 いつか、望んで。 ― 光秀&姫 ―
俺の怪訝な顔に舞は言葉をかぶせてくる。
「光秀さん、ご自分の誕生日を忘れていませんか?」
「あぁ…そういえば…」
俺が目を細めて思い出すと、舞が更に口を開く。
「九兵衛さんから聞きました。先日お仕事中にお誕生日を迎えられたって。私に何が出来るかっていったら縫物くらいですから、普段使ってもらえる羽織を作って、それに明智家の桔梗紋をあしらいました」
本当は誕生日とやらを祝ってもらうのも面倒で、だからこそ安土を離れていたのだ。
それなのに舞のする事は、俺の想像を軽々と超えてきて、俺の思考をかき混ぜて、可愛くてならない。
「ありがとう。後で中を見る事にしよう」
俺は舞の頭をくしゃりと一度大きく混ぜるように触ると、髪型が崩れた、と騒いでそれすらも愛おしくなった。
「舞…おまえは本当に可愛いな」
俺の言葉に途端に口を閉ざし、顔を真っ赤に染める舞をそっと抱き寄せる。
「みつひ…」
全部名前を呼べないのは、俺が舞の唇を塞いだからだ。
「これを着た俺の姿を見て誕生日を祝いたかったら、俺の邸へ来るが良い。しかしその日は、来たら城へ戻れないのは覚悟しておくのだな」
俺の言葉の意味に気付いたのか、益々赤くなる舞の姿に笑みを浮かべ、俺はひらひらと手を振って舞の前を去る。
舞は来るか、来ないか、きっと来るだろう。
俺へ贈ったものが似合うかどうか、そして今宵、俺たちに何が起きるかわかっていて、それを心の奥底で望んでいるのを俺は理解しているから、な。
<終>