<イケメン戦国ショートストーリー集>戦国の見える蒼穹
第228章 いつか、望んで。 ― 光秀&姫 ―
安土近隣の大名がおかしい動きをし出して、舞を偽物の妻として連れて行き、旅芸人の一座に入り込んで舞を傷付けた事の仕返しをした夜。
一座から抜けて暗い中、馬を走らせ安土へ向かった時、舞の唇を盗んだ。
俺はここではっきりと気付いたのだ、舞への恋情を。
闇の中を歩く俺には眩しい存在の舞は、けれど愛しくて、本当は全てを俺のものにしてしまいたい。
「貴方といると、貴方を嫌いになれなくなります」
何とも可愛い事を言ってくれる、そんな事を言われたら益々手放せなくなるだろう?
町のおんな達から言われている事は知っている、俺の事を『惚れたら地獄』と。
俺を好いても俺は相手のおんなには惚れない、だから、俺に惚れるとそれ以上の手立てが無いのだ。
しかし、舞、おまえは違う。
「安土に帰ったら偽りの夫婦は終わりだ」
俺の言葉に息を呑んだ様子を見せた舞は、馬に揺られる俺の耳にはっきりと言った。
「もし…嫌だと言ったらどうしますか?」
少女のように幼い表情を見せると思うと、ふと見せる眼差しは凛として嘘を見抜くようなまっすぐなもの。
今、馬上でその瞳で振り向いて、手綱を持つ俺を見つめていた。
「嫌だと言っても終わりだ。おまえは信長様気に入りの姫だろう?俺はそんな姫さまにどうこうしようとは思わん」