<イケメン戦国ショートストーリー集>戦国の見える蒼穹
第224章 動きだす恋 ― 姫&蘭丸 ―
「わわっ」
信長様に頼まれた本を数冊、持って歩いていたら何かに蹴つまづいて転びそうになる。
転ぶのを覚悟してどこかぶつけるだろうと思っていたのに、転ばずにいる。
あれ?と見ると、私の後ろから腰に手が回って、転ばないように誰か支えているのだった。
この細い腕は…
私は後ろを振り向き、その細腕の持ち主に改めて礼を述べた。
「蘭丸くん、ありがとう。おかげで転ばずに済んだよ」
「どういたしまして。間に合って良かった」
にっこりと可愛い笑顔を見せてくれる蘭丸くん。
「それにしても、すぐ近くにはいなかったよね?どこから出てきたの?」
廊下を歩いている時、すれ違った訳でもないし、すぐ後ろにいたのを見た訳ではない。
一体どこから表れたのか、ふと疑問に思って聞くと、一瞬真顔に戻った蘭丸くんは、すぐまた柔らかい笑みを浮かべて言った。
「ちょうどこの部屋から出てきたところだったんだ」
すぐ横の部屋は確かに襖が開いていて、誰かが出入りしたようだった。
「そうなんだ、ありがとう」
改めて礼を述べるより早く、落とした本も拾ってくれる蘭丸くんは優しいなぁと思いながら、その優雅な仕草に見惚れていた。