<イケメン戦国ショートストーリー集>戦国の見える蒼穹
第223章 イケ戦テーマ曲 ― 姫&信長 ―
一番でも出来るかなぁ、でもだからこそ演者のプライドでやってくれるかもしれないかな。
そんな期待を込めて、私は演者のかたに、実は裏で文句を言われつつも指導し、練習してもらった。
演者の能力の高さをみせつける事になった私の楽譜を、担当者たちは見事に各パートは練習したらしい、合わせた時に音の強弱の問題はあるものの、各自の演奏は申し分ないものだった。
内心舌を巻きつつ、しかし主旋律の楽器はもっと大きい音が欲しい、けれど吹く楽器がある以上限界があるのもわかるので、これについては諦める事にした。
そして信長様始め、武将の皆様が並ぶ中、私の曲が演奏される時がきた。
雅楽の並びかたとは違う位置に座る演者の姿に、皆、一様に訝しんでいるのがわかる。
私が「ワン、ツー」と出だしの合図を掛けると演奏が始まる。
ソラシ、ドシドミレドシド、シソソ、ソラシ、ドシドミレドシド、レソミレ…
こんなテンポの曲を聞いた事がないだろう、皆様は固まった顔をして見ている。
ほんの数秒の曲を、雅楽と全く違う編成、雅楽と全く違うテンポや構成で演奏してもらい、終わった後も皆様はぽかんとしており、信長様一人がくつくつ笑っていらした。
「舞、貴様のいたところは、相当変わったところのようだな」
「…そうです」
受け入れてはもらえていないようだけれど、私は自分のやる事をやったとして胸を張る事にした。
「演者ども、この舞の酔狂によくぞ付いてきた。後で褒美をとらす」
演者のかたへの御礼をどうしようかと思っていたので、信長様がおっしゃってくださり、面目を施され私は小さく安堵のためいきをついた。
この曲はどこにも残らない、未来にも当然残らない今回だけの曲だけれど、私は出来に満足する。
祝いの席は初夏の少しぬるい風の吹く中、続いたのだった。
<終>