<イケメン戦国ショートストーリー集>戦国の見える蒼穹
第2章 猫さん ― 顕如&三成 ―
織田信長に捕まってから、私は安土城の地下牢に囚われている。
処刑するならさっさとすれば良い。
しかし、信長は、私に自分の作った新しい世を見せるつもりなのか、殺さず生かしたままにしている―
「んにゃっ」
時々猫が私のところにやってくる。
少し前、石田三成がここに来た時、一緒についてきた猫だ。
石田三成はその猫の事を『猫さん』と呼んでいた。
いい歳した男が猫の事を『猫さん』と呼ぶとは、笑止千万。
が、その『猫さん』はするりと格子をすり抜け、今日も私の元へやってきた。
いきものに罪はない。
私は『猫さん』を抱き上げると、人差し指で喉をすりすりと撫でてやる。
途端に『猫さん』はうっとりした顔をし、ゴロゴロと喉を鳴らす。
猫のぬくもりは、温かい。
いきものを通して、生を実感する。
しかし、生など、私が既に無くしたものだ。
ここにいる私は生きる屍(しかばね)なのだから。