<イケメン戦国ショートストーリー集>戦国の見える蒼穹
第208章 惹かれる感情 ― 姫&元就 ―
「毛利、元就さん…でしょう?」
私の答えににやりと片頬で笑うあの人は言う。
「だったら話しは早い。俺と関わるとおひいさんが困るだろう?おひいさんは織田信長の縁の者だからな」
ああ、この人も私がどういう立場かわかっているんだ。
「じゃあ話しが早いです。ここはお互い毛利元就である事も、私の織田信長の縁の者という事は捨てて、ただの男女が御礼にお酒を飲むという事でいかがですか?」
私の提案にあの人はぽかんとし、そしてまた笑い出した。
「全く変わったおひいさんだな。そう言われちゃしようがない。俺は毛利元就ではなく、おひいさんも織田信長の縁の者ではない立場で酒を飲むんだな」
「はい、そうです」
「それなら断れない。酒を飲ませてくれるのはどこだ?」
あの人は私の肩をぐいと引き寄せ、私の言う方向へ歩き出す。
「お酒、好きなんですか?」
私の戯言のような質問に、まるで少年のような表情で答えてくれる。
「ああ、好きだ。隣にこんな美女が居るんだしな」
冗談を言う人とは思わなかったけれど、今は互いの名前は捨てた男女。
あの人の素顔を見てしまった私は、無邪気なあの人に心が惹かれていくのを感じる。
あの人が毛利元就でなく、私が信長様と縁の無い立場であったなら。
私は、きっと、この人にもっともっと惹かれていった事だろう。
<終>