<イケメン戦国ショートストーリー集>戦国の見える蒼穹
第208章 惹かれる感情 ― 姫&元就 ―
粗野で乱暴な人だと思っていた。
けれど、安土城下で浪人に絡まれた町の人と私を助けたのは、あの人だった。
私は去りゆくあの人を追い掛ける。
「あの…っ、待って、ください…っ」
私の草履の足音と掛けた声に気付いたのか立ち止まるあの人。
「なんだ?」
振り向く表情はまるで私が追い掛けてくるのをわかっていたような、そんな薄い笑みを浮かべていた。
「助けてくださって…ありがとうございました」
私の礼に肩をちょっとすくめたあの人は、なんてことはない、と小さく言う。
「俺がそうしたかったからそうしただけだ。気にするな、じゃあな」
そうしてひらひらと片手を振り、私の前からまた去りゆこうとするので、私はついその腕に抱き着いてしまった。
「おいおい、おひいさん、いったい何をするんだ」
私の突然の行動に、あの人は目をしばたたかせる。
「あのっ…御礼をちゃんとしたくて…だからっ、まだ行かないでください…」
私の言葉に益々目を丸くするあの人は、そして笑い出す。
「面白れぇおひいさんだな。俺が誰かわかってるんだろう?」