<イケメン戦国ショートストーリー集>戦国の見える蒼穹
第206章 乙女解剖 ― 姫&武将 ―
あの人があのお姫さまを選んだ夜、私はその様子を見たくないのに見てしまった。
あの人とお姫さまは微笑み見つめ合い、そしてあの人はお姫さまの腰を引き寄せ口付けをしていた。
あの腰を抱く腕や唇は私のものだったはず。
でも、もう、あの人は、私を抱かない。
生きたくない、そう言ってしまえれば、ラクなのかな。
身を焦がすような恋をしていると思っていたけれど、それはひとりよがりだったんだね。
あの人が他の人を好きになる夢をみたけれど、まさしくそれは正夢。
あの夜から全てが変わってしまった。
私だけの人だったあの人は、私をすり抜け、違う人の手を取って未来を進む。
一人ぼっちの未来は考えられない、だから私の未来は無いの。
私のからだは指先から失われて行く。
あの人と歩けないなら、この先へ行く事は考えられないもの。
心は痛いくらいがちょうど良いのだろうけれど、もう私は何も感じない。
解剖されてゆく私のからだと心は、もう生きる意思を失って化石となる。
「舞、愛してる。俺はおまえのものだ」
もう、そんな偽りの言葉は要らないよ。
私は、あの人によって、全てを壊されていくから。
夢じゃない現実の重さに潰れていくの。
<終>