<イケメン戦国ショートストーリー集>戦国の見える蒼穹
第200章 笑顔 ― 姫&光秀 ―
ここ、とは、安土城の中。
信長様を撃ちにでも行くのかな、と一瞬不埒な思いがよぎる。
「くっ…おまえはわかりやすいな。信長様を討ちに行く訳ではないぞ」
光秀さんは片手で口元を覆うと、珍しく大笑いした。
わぁ、光秀さんて本当に楽しいと、こんな風に笑うんだ。
まるで少年のような笑顔に私は驚き、そして光秀さんの秘密を覗いたようで嬉しくなった。
光秀さんは私がじっと見ていたのに気付き、すっとその笑顔を消して、いつもの何を考えているかわからない表情に戻る。
「おまえは本当に面白い」
私に光秀さんは言うけれど、私も光秀さんの本心を見てしまったようで面白いよ。
「私も…光秀さんの本音を今の笑いで知ったように思えます」
そう、言うと、光秀さんは私の腕を掴んだ。
「ほう…俺の本音を知った、と言うか。ではこれから二人でたっぷりそれを聞かせてもらおうか」
今度はいつもの笑みを浮かべ、私を目の前の空き部屋へ連れて行こうとする光秀さん。
あの笑顔を見てしまったら、何をされても構わない、私はそう思えていた。
何も心に闇を抱えていない幼い頃のような、めいっぱい笑っていたあの表情。
もう一度見られるなら、光秀さんに私を全て差し出しても良いよ、と思う程の威力だった。
私はあの笑顔に惹かれてしまったのだろう。
<終>