<イケメン戦国ショートストーリー集>戦国の見える蒼穹
第196章 月のうさぎ ― 謙信&姫 ―
月の光だけが目の前に陰を作る。
杯を持ち上げると、隣にいる舞が酒を注ぐ。
「今宵は満月なのだな」
俺が言うと、顔をあげて空を見た舞が屈託ない笑顔を見せる。
「そうですね、謙信様。知ってますか?月にはうさぎがいるんですよ」
「月にうさぎ?」
そんなのは初めて聞く事なので舞の横顔を見る。
「はい。月を見てください」
言われて月を仰ぎ見る。
舞のほっそりした人差し指が俺の目の前から月へ向かって伸び、月を指さす。
その指が何やら形を作る。
「丸い月の中に陰があるの、わかります?ただの一色ではなく色の違う部分があるんですけれど」
言われて見ると、確かに月光は一色ではなく微妙に違う色が、何やら形作っているように見える。
舞の指がもう一度、こんどはゆっくり動きうさぎの形をなぞる。
「月のうさぎか…」
ようやく形に気付き、納得した声をあげると、舞が嬉しそうな声をあげる。