<イケメン戦国ショートストーリー集>戦国の見える蒼穹
第184章 光忠 ― 政宗&姫 ―
「でも緊張しちゃうんだよね、政宗の作るものは何でも美味しいから」
「本当におまえは可愛いな。俺の事が好きってよくわかる」
俺がまんじゅうを食べ、湯呑を持って言うと、舞は赤くなる。
「え、えーっと、うん…」
いつも同じ事を言っているのに、いつも新鮮な反応をみせる、初々しい舞を見ていると本当に俺は退屈しない。
「あ、刀の手入れをしていたんだよね、さっき」
急いで会話の内容を変える舞。
「ああ、先日の戦で光忠にはずいぶん活躍してもらったからな」
刀掛けに置かれた俺の愛刀に近寄り、じっと見つめる舞は光忠に礼を言った。
「光忠さん、いつも政宗を守ってくれてありがとうございます。これからも政宗をよろしくお願いしますね」
「おいおい、刀に礼を言うやつは初めて見たぞ」
俺は目をしばたたかせると、舞は振り返って言う。
「でも戦場で政宗を守ってくれるのはこの刀でしょう?だったら御礼を言って間違いないよ。私は自分が行かないから、代わりに政宗を守ってくれる光忠にありがとうって言っておきたいの」
すると光の加減の偶然なのだろうが、舞の礼に反応したように光忠がキラリと刃を光らせた。
「あ、政宗、今の見た?光忠が『わかった』って返事をしてくれたよ」
嬉しそうに舞がぱちりと手を叩く。
ああ、確かに刃が一瞬強く輝いたのは見たが、俺には差し込む陽の光が偶然光忠に当たったとしか思わなかった。
俺は光忠を腰に差し、明日も出陣し敵をなぎ倒す。
『そうじゃないよ。貴方への想いを受け取ったんだ』
光忠はそっとひとりごちる。
『僕を大切にしてくれる政宗公に仕えられて、僕は幸せだよ。僕は僕でいる限り、政宗公を守っていくから』
この声は誰にも聞こえない。
<終>