<イケメン戦国ショートストーリー集>戦国の見える蒼穹
第177章 弓張月 ― 姫&謙信 ―
夕刻の日が沈み、空の色が変わりつつある中、謙信様と二人きりの酒宴。
「謙信様、見てください。月が出てます」
私は見付けた空に浮かぶ細い細い三日月を指さす。
「弓張月か」
注いだお酒を一杯、平然と飲む謙信様が言った月の名に私は問う。
「ゆみ、はり、つき…ですか?」
「そうだ。まるで弓を張ったようだろう?」
言われてみれば確かに弓を張ったように見える。
「確かにそう見えます、弓張月なんて風情ある言い方ですね」
私は謙信様にお酒を注ぎながら言うと、さっと一口で飲み干して謙信様は口を開く。
「月なぞ毎日形を変えるから、風情より実が有るか無いかと思うのだがな」
「…そういう事、私が居た時代でも言っていたような気がします」
私がちょっと口をとがらせながら注ぐと、謙信様は差し出したおちょこの酒を飲み干して笑みを浮かべ私の肩を抱く。
「舞、元の時代が恋しくなったのか?」
「それは無いです、だって、あの時代には…」
「では、なんだ?」