<イケメン戦国ショートストーリー集>戦国の見える蒼穹
第160章 もう傷付けない ― 家康&姫 ―
「もう、口を開かないで、言い訳は要らないからっ!」
唐突に言われた言葉に、俺は何も言えず立ち尽くした。
「嘘つき!」
舞から言われた一言は、月並みな言い方だけど俺の胸に突き刺さった。
嘘をついたつもりはなかった。
ただ、俺はからかっただけのつもりだった。
でも、舞にとって深く傷付き、俺を非難するだけの言葉を言わせてしまった。
俺は走り去ろうとする舞の手首を急いで掴み、俺に引き寄せる。
「嫌だ…離して…!家康なんて、大嫌いっ…!」
舞の声は涙声で、俺は片腕で舞を無理やり抱き留め、もう片手で乱れた髪の毛をかきやり、舞の顔を見る。
舞は涙を流しているが、俺から抵抗して横を向いて、俺から逃れようとしていた。
舞の泣き顔は何度も見たけれど、今日の涙はいつもの涙と違う、俺が怒らせた涙だ。
俺は舞を両手で苦しい程の強さで抱き締め、心の底から、謝る。
「…ごめん…舞、あんたを傷付けてしまった…ごめん…」
俺の謝罪が耳に入ったのか、だんだんと静かになり、無言になりしゃくりあげる声だけが聞こえてくる。
俺は舞の髪の毛をずっと片手で撫でる。