<イケメン戦国ショートストーリー集>戦国の見える蒼穹
第156章 くすり ― 家康&姫 ―
周囲の人を気にしている暇も無く、走る、あの子の為に。
安土城内へ入り、普段なら秀吉さんが「走るな」と注意をするだろうけれど、今日はそんな声は掛からず、俺は部屋の前で止まり、呼吸を落ち着かせる。
「家康か?」
中から、秀吉さんの声がする。
「はい、入ります」
もう一度大きく息を吐き、襖を開け、中へ入ると、秀吉さんが絞った手拭を、舞の額に置き直したところだった。
「熱はどうですか?」
そう言って俺は、舞の布団の横に座り、頬に手を当てる。
かなり、熱い。
「かなり熱は高いようですね」
俺の言葉に秀吉さんもああ、と心配そうに頷く。
俺は手にしていた薬箱を隣に置き、引き出しを開けると、複数の白い紙に包まれたものが表れ、そこから俺は一つ包みをつまみあげた。
「熱冷ましはこれですね」
「飲ませてやってくれるか?俺はこの桶の水を取り替えてくるから」
秀吉さんに頼まれ、俺は頷いた。